土曜日

リハビリ日数制限緩和

厚生労働相の諮問機関の中央社会保険医療協議会(中医協)が、リハビリテーションの日数制限見直しを答申した。

 介護保険のリハビリが受け皿として機能していないためで、医療と介護の溝の深さを浮き彫りにした。(社会保障部 阿部文彦)

 昨年4月、脳卒中などの患者が病院や診療所で受ける医療保険のリハビリが制限された。それまでは、原則として制限なく行うことができたが、診療報酬改定によって、失語症などの一部の特定疾患を除き、90?180日の日数制限が設けられた。

 「長期にわたって効果が明らかではないリハビリが行われている」という専門家の指摘を受けた措置。病状が落ち着いた「維持期」の患者は介護保険に移行、老人保健施設などの通所リハビリや自宅での訪問リハビリで対応する方針が示された。

 これに対し、「医療保険のリハビリが必要な期間には個人差が大きい上、介護保険のリハビリは質量ともに不十分」として、医療関係者や患者団体が反発。制限の撤廃を求める署名運動が起き、国会でも野党が厳しく追及した。

 厚労省は当初、2008年度の次回改定での見直しを検討していた。ところが、12日に公表された中医協の特別調査で、心臓病などでは、算定日数の上限でリハビリを終了した患者の1割弱に、身体機能の改善が見込めることがわかった。また、医療機関から介護保険のリハビリを紹介されながら、適切なサービスではないといった理由で、実際には利用していない“リハビリ難民”も多かった。

 このため、中医協は4月の実施を目指して、異例の改定に踏み切った。

 14日に出された答申では、日数制限を超えてリハビリが可能になる特定疾患に狭心症などを加えたほか、特定疾患以外でも、「医師が必要と認めた場合」にリハビリを延長する特別措置を講じた。さらに、維持期の患者向けに、月2回を上限とする「リハビリテーション医学管理料」を診療報酬に新設し、「介護保険の受け皿は不十分」との批判にこたえた。

 今回の改定により、必要なリハビリを受けられない患者が続出し、健康が損なわれるという最悪の事態は回避される。教訓とすべきは、不備な制度がなぜ設計されたかだ。

 まず指摘されるのは、医療と介護をつなぐ視点が欠けている点だ。

 2年に1度の診療報酬改定と、3年に1度の介護報酬改定が重なった2006年度改定では、医療と介護の役割分担の明確化に重点が置かれた。

 「医療保険は早期のリハビリを受け持ち、維持期は介護保険で」という方針は、この流れに沿ったものだが、中医協では、介護リハビリの整備状況や、医療保険から移る患者の受け入れが可能かなどの検討は行われなかった。厚労省も医療は保険局、介護は老健局と縦割りで、中医協に介護の情報を提供しようという意識が薄かった。

 「介護がどういう状況か、事前にもう少し分かっていれば、こういう事態はある程度避けられた」と土田武史・中医協会長は振り返る。

 中医協の審議期間の短さも足かせとなった。診療報酬の改定は毎回、秋から本格化し、2月に答申を出す。検討課題は多岐にわたるため、すべてに論議が尽くされるとは言い難い。委員の間で意見の対立が見られなかったリハビリの場合、検討に費やした時間は30分に満たなかった。

 もちろん、手術直後などのリハビリを手厚くし、維持期のリハビリは、単価の高い医療保険からはずすという方向性は誤りではない。リハビリの開始が遅いため、回復に時間がかかり、必要以上に病院にとどめられる患者も少なくなかったからだ。

 とはいえ、日数制限は、これまで受けていた医療サービスを保険外とする“劇薬”だ。患者の目からは「切り捨て」に映りかねない。点数を上げ下げする通常の改定に比べて影響は大きく、慎重に論議を尽くすべきだった。

 高齢者の増加により、医療と介護の適切な役割分担はさらに重みを増す。08年度の新高齢者医療制度発足を控え、新年度からは、高齢者にふさわしい医療のあり方や、「社会的入院」の元凶とされる療養病床をめぐる論議が本格化する。政府は縦割り行政を排して、患者本位の医療・介護を実現すべきではないか。

読売新聞 - 2007/3/16
ラベル: 介護保険, 日数制限緩和


posted by minasan @ 3:59 午前

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